人気ブログランキング | 話題のタグを見る

フランスの反年金改悪騒乱に想う

フランスは、退職年金の支給開始年齢を62歳から64歳に引き上げる年金制度改革を大統領が議会にかけずに決定したことをめぐり、大規模な反政府騒乱に見舞われている。

こうした年金受給権の制限を内容とする制度改革―改悪―は、高齢化が進み、社会保障費が財政を圧迫している諸国では避けられなくなっている。制限の方法としては、支給金額を減額する方法と支給開始年齢を引き上げる方法があるが、前者は生活難につながるため、減額せずに年齢を引き上げる方法が好まれる。*折衷策として、支給開始年齢を据え置きつつ、一定年齢に達するまでは基本金額より低い金額を支払う方法もある。

この方法によると、勤労者が所定の年金を受け取るには、引き上げられた年金支給開始年齢まで賃金労働を続けなくてはならず、労働期間が延長されることになる。

こうした策は、年金財政も貨幣経済の中に組み込まれている資本主義経済の限界であるから、資本主義を護持する限りは避けられない改悪であって、抗議したところでどうにもならず、根本的な解決のためには貨幣経済そのものを廃止する革命によるほかない。

それでも、フランス国民は忍従することなく、激しい街頭デモで対抗しようとしている。ただし、これは革命行動ではなく、現状では政府の個別政策に反対する抗議行動であるが、さすがかつては数次の革命を経験した「革命の国」だけあって、最後の革命から150年近くを経ても、革命のDNAは形を変えて継承されているのかもしれない。

その点、日本ではフランスの今般改革案を上回る65歳引き上げが20年以上も前に実現済みであるが、フランスのような抗議行動は全く起きていない。

これは日本人が如上の資本主義の限界を認識し、運命として静かに受容しているから・・・ではなく、単に国民が無反応になっていることの証であろう。現代日本国民は政府が何をしようと、そもそも否定的な反応を示さない体質と化し、すべてを淡々と受容する巨大な無反応社会を形成している。

それは、過労死しても長期間働き続けることを厭わない働きアリ体質とも関連しており、その体質からみれば、フランス国民の年金改悪抗議行動などは、早期に退職し、年金貰って楽をしたい怠け者のたわけた反乱にしか映らないかもしれない。

ただ、日本国民が昔から一貫して無反応だったわけではなく、無反応社会へのターニングポイントは1980年代にある。おおむね1970年代以前の日本国民はもっと反応を示し、警察機動隊と衝突するような抗議行動が頻発した時代すらあったが、1980年代頃を境に、それ以前とはまるで別の国のごとくとなって今日がある。

80年代以降に何がそうさせたのか、ここで分析する余裕はないが、現代日本には抗議行動を厳しく抑圧するような弾圧法規は存在しないので、現在の無反応は強いられたものではなく、自発的なものである。言わば、国民の自発的な権利不行使によって形成された無反応社会である。

このような自発的無反応社会は、世界の独裁者にとっては羨望の的だろう。通常の独裁者は、国民を沈黙させるためにあの手この手の抑圧手段を繰り出さなくてはならず、苦労が多いから、日本のように抑圧手段を使わずして無反応社会を維持できることはかれらにとって最高の理想のはずである。

本題に戻って、年金制度改悪は超高齢化社会を生きる日本国民にとっても依然として他人ごとではない。最悪なのは、減額+一層の年齢引き上げ(例えば70歳まで)のセット改悪であるが、現在の無反応社会であれば、実現は難しくないかもしれない。

by comunes | 2023-03-26 12:41 | 時評